
あらすじ・感想
先崎学の「うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間」の紹介です。
天才、先崎学
著者の先崎学は現役の将棋棋士。
私からすると全ての棋士は天才なのだけど、彼もまた天才の一人。
小学5年生で奨励会に入会。しかも入会前から師匠の自宅に住み込んで指導を受けていた。自ら親元を離れ将棋の道を選ぶ小学生、才能に確信がないとできることではないと思う。
奨励会は天才同士が競い合うとんでもないところで、ストレスも並大抵ではなかったはずだ。そのストレスを力に変えられる者だけがプロになれる。そういう世界だと思う。
その将棋界で彼はプロになり、活躍し、九段まで上り詰めた。
プロ棋士が将棋を失くした一年間
「うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間」は、この先崎学棋士が実際に“うつ病”になったときの話。
47歳の誕生日翌日、「昨日まで元気で楽しく、何より生活に余裕があった」彼が、その日を境にどん底へと落ちていく。そして、なすすべなく転がり続ける。
プロになって30年、千局以上を指して一度も不戦敗のなかった棋士が将棋を指すことを諦め、入院、休場する。そうするしかなかった話。
先崎九段自身の手による、彼にしか書けない作品だ。
彼は病気になる以前から雑誌で連載をもつ優れた書き手でもあった。
感情豊かで飾らない。ユーモアがあって面白い。
その面白さは内容がうつ病に変わっても変わらず健在で、まったく軽い話ではないが、どこまでも読みやすい。
実例、一例だからこその普遍性
もちろんこれは彼の話。
これほど特殊な人もいないというくらいの個別事例。
でもそれは、どれほど環境の異なる、どれほど似ていない人でも同じ「うつ病」という病気とは無縁ではないということのあかし。
そしてまた、一人の患者にとっては、どこまでも個人的な辛い症状
「朝起きられない、死のイメージ、考えられない、どこまでもネガティブ、そして疲れやすい…」などが自分だけの悩みではないのだということを示す事例でもある。
心が弱いからうつ病になるのではない。
うつ病の症状として、心が弱るのだ。
症状だと自覚する
「最近なにか、おかしい」と感じたり、
「最近ちょっと疲れてるんじゃない?」と言われたりしたなら、
一度、読んでみてほしい。
気のせいだとか、甘えなのか?とか、もう少しすれば何とかなるからとかは少し脇に置いて。
自分のことしか見えなくなる病気だからこそ、
他人の話として、他人事として「うつ病」について知ってほしいと思う。
もしかしたら、本は読めないかもしれない。
読んでも頭に入ってこないかもしれない。
そんな時は漫画版を“見て“みてほしい(先崎学原著、河井克夫著)。
私が先に読んだのは漫画版で、本が読めない状態ではなかったけど、漫画から入って良かったと思うところもあった。一コマ一コマの表情や背景、線や文字フォントの使い方にも、直感的な理解を助ける工夫があったから。
後から原作を読んだ時には「ああ、だからあんな風に描いていたんだな」と思うところもたくさんあって、比べて読むのも面白かった。
なので、どちらかを選ばないといけない、という本ではない。
うつ病が気になる人は一度開いてみてほしい。
でも本当は、うつ病のことなんてなんとも思っていない人に読んでみてほしい本だと思う。
ドラマ化もされているので機会があればこちらでも。
私はどちらも視聴していないので、ドラマの詳細等はわかりません。
2019年 ラジオドラマ NHK‐FM『FMシアター』で放送
2020年 テレビドラマ NHKBSプレミアムで放送